庭の隅


わたしは一匹の雨蛙の

棲んでゐる石を知つてゐる

それは庭の隅の

松の木の蔭に

乾いた苔におほはれて

とつこつと立つてゐる灰󠄁色の

石だ

雨蛙はその石のヒダ

身をひそめてゐたり

或るときは

木洩れ陽のあたるところに

へたりと腹ばつてゐる

彼は長い間この石に

棲んでゐたのでいつのまにか

體は灰󠄁色になり

石と見わけがつかない

私は彼の心も灰󠄁色だらうと思ふ

石に手をふれるとひいママやりと冷たいが

その冷たさは彼の手足と

彼の眼と彼の心の冷たさと

同じだと思ふ

わたしは日に何度も

この靜かな陰しつの場所󠄁に

訪ねて來て

雨蛙のすみかをのぞいて見る

槇の葉を押しわけて

顏を近󠄁づけても

細い金で緣どられた

彼の小さいか黝い眼に

わたしの顏がに小さく映つても

彼は冷やかに石の一部分のやうに

うごかない

おいとわたしは聲をかけて見ても

小さな鼻孔を

依然ひくつかせてゐるだけだ

かうして見てゐると自然に

彼の心の冷たさと灰󠄁色が

私にもうつつて來て

わたしも石に吸ひよせられてゆく

わたしも雨蛙も石も

一つの心になる

わたし達󠄁はお互をあまりに理解し

もはや冷たささへ感じないのだ

そのとき

春といふのに春も何も超えた

松風の音󠄁が

わたし達󠄁の頭上に太古の歌を

うたふのをわたしたちは――

わたしも雨蛙も石も

しいんと聽くのだ

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